アロマを身近に感じてもらうをテーマに、アロマに関わる人々にスポットをあてお話を聞くインタビューシリーズ『AROMA PEOPLE(アロマピープル)』。2回目の今回は、アロマテラピーサロンを主宰する藤田明菜さんです。
コルギと本格アロマトリートメントが人気のサロン「Acupass refle(アキュパスリフレ)」を主宰するかたわら、ショートストーリー付きアロマルームスプレー「Portray Aromas(ポトレイアロマ)」を手がけるなど、活動の幅を広げています。
藤田明菜 / Akina Fujita
1983年岩手県出身。セラピスト/アロマテラピーアドバイザー/アロマブレンドデザイナー/ACUPASS refle 店主。2014年、新宿にてアロマトリートメントサロン「ACUPASS refle」をオープン。アロマスタイリストの活動「Portray Aromas」では、《香りを描く》をテーマに精油を絵の具のように組み合わせ、ちいさな言葉を添えた、オリジナルのアロマルームスプレーを販売。
リラックスするには好きな香りで気持ちをほぐすのが一番
――まずは、アロマに興味をもったきかっけを教えてください。
実は、もともとアロマに全く興味がなかったんです。でも、自分でサロンをやると決めたときに、アロマを取り入れようかなと考えたのがきっかけです。
独立前に勤務していたリラクゼーションサロンでは、トリートメント用のオイルが数種類あるのみで、コースによって使う種類も決まっていたんですね。例えば、体のコルギならこのオイルですって。
それでもいいんですけど、「コルギで体はスッキリさせたいけれど、気持ち的にはリラックスしたい…」みたいなときもあるじゃないですか。
なので、その日の気分にぴったり合う香りを選べたらいいなぁって。それで、自分のサロンでは香りを選べるようにしようと思い、そこからアロマに興味をもつようになりました。
それと、もうひとつ。サロンで大事にしているのが、リラックスできることなんです。体をほぐすには、まず気持ちがほぐれないと体はほぐれなくって。
「じゃあ始めます」っていう感じで二言三言会話をしただけで体を触られるよりも、「これはいい匂い」「今日はこの香りは苦手」と、会話を交わしながら一緒に時間をかけて香りを選んでいくことで、気持ちも自然とほぐれていくというか。
緊張を取り除いて、リラックスするためにもアロマはいいなぁと思ったんです。
――コルギに本格アロマを取り入れているのは面白いですね。
そうですね。いろいろなオーガニック精油の中から、お客様がそのとき必要と感じている精油を組み合わせたオリジナルのアロマを使っていくのですが、香りが選べる本格アロマとコルギのお店は珍しいと思います。
コルギというと、「痛そう」「怖い感じがする」と、不安感を持たれている方も多いのですが、オーガニックならではの心地よい香りを取り入れることで、体の芯からリラックスした状態で施術を受けていただけるんです。
――私も初めて明菜さんのコルギを受けたとき、想像以上に痛みが少なく驚きました。香りの力は大きいですね。
意外と痛くない感じですよね。香りがあることで、自然と体の力が抜けていくので、その結果、痛みが抑えられたり、トリートメントの効果が上がりやすくなるんです。
最初すごく痛がっていたけど、3回目くらいで眠ってしまうお客様もいらっしゃるんですよ。
今までにない香りの世界観を楽しんでほしい
――続いて、ポトレイアロマについてもお伺いさせてください。
ポトレイアロマでは、「香りを描く」をテーマに、オリジナルのアロマルームスプレーを作っています。
“いい香り”以上の体験を楽しんでいただくために、作品ごとにアロマブレンドの背景を綴ったショートストーリーを添えたり、その物語の風景をラベルに落とし込んだり。
香り・ショートストーリー・ボトルデザイン、この三位一体から生まれる世界観を楽しんでほしいという思いで、細かいところまで工夫しています。
――そもそも、ポトレイアロマを始めたきっかけは何だったんでしょうか?
もともと私が香りのブレンドを作るときには、イメージがすごくわくんです。映像のようにパーっと浮かんで。それを形にしていくのが私のブレンドの仕方で。
なので、そのイメージが浮かんでいるところを言葉として添えたら、もっと香りを楽しめるんじゃないかなと考えていたんです。
ただ、いい匂いだねっていうのも楽しいんですけど、なぜそれを作ったのか、その背景がわかるとすごく面白いじゃないですか。美術館で絵を見るときのように。
それで、いつか香りにお話を付けたら楽しいだろうなぁ…と思い描いていて。
ちょうどそのころ、表参道にある美肌室ソラさんからお声をかけていただいたんです。「蜂蜜とパンと、セロトニン」というイベントで、蜂蜜の採れる森をイメージした香りを作ってほしいって。
そこで、3つの森の香りのアロマルームスプレーをお話付きで作ったのがポトレイアロマの原点なんです。
いつかやりたいと思っていたことを始めるきっかけを作っていただいて、すごく感謝しています。
――作品づくりで大変なことはありますか?
香りを作るのにとても時間がかかることですね。
ポトレイアロマのメインである森のシリーズは今でもブラッシュアップをしていて、これまで1つの香りにつき、最低100回、多いと200回くらいは試作しています。
スプレーの形にして、香りの濃度やバランス、水やエタノールの量など細かいところまで調整しているので、どうしても試作の回数が多くなってしまうんです。
でも、濃度でブレンドのイメージが全然変わるんですよね。濃ければ香りが広がるかっていうとそうでもなくって。
面白いことに、薄くした方が香りが濃くなるブレンドもあるんですよ。濃いと最初に鼻が麻痺しちゃって、細かい香りがわからなくなるとか、香りが広がらなくなってしまうのかもしれませんが…。
ブレンドは謎が多くて、日々研究です(笑)
――東京をはじめ、各地のイベントにも出展されていますね。
やっぱり香りはまず嗅いでもらわないとわからないので。なるべく香りを嗅いでもらえる機会を作るためにも、手づくり市やハンドメイドイベントに定期的に出展しています。
お客様に作品を手にとっていただいて、「カナダの森の香りっぽい」とか「わかるわかる!」と言っていただけると、とてもうれしいですね。
香りひとつひとつの世界観が面白い
――香りのブレンドで「ここが面白い!」と思ったエピソードはありますか?
最近思うのは、学校の先生のようなイメージでブレンドしているんですよ。学校の先生がクラスを決めるときのような感じです。
「この精油とこの精油がくっつくと、くっつきすぎて目立ちすぎるからもうちょっと減らそう」とか、「この精油は最初とがっていて個性的だけど、意外とちょっと入れると支えてくれて面倒見がいい」とか。ひとつのクラスを作り上げていくように感じることがあって。
そのクラスができあがったばかりの状態から、数日後、1週間後、1か月後…と経過をみていくと、「あ〜やっぱり(問題が)出てきた」とか…。
なんていうか、香りは人っぽいんですよね。どうしても相性がよくないっていうのもありますし。
でも、そこに別のひとつを加えるだけで、ちょっと中和されたり。同じオレンジの香りでも、ブランドによって細かい雰囲気が全く違うっていうのも面白いし。
ひとつひとつの精油をよく研究していくと、何かの香りが強いときに、「あ、あの人だな…」っていうのも不思議とわかるようになるんです(笑)そういうのが結構面白いなと思います。
――ちなみに、最近一番印象に残っている香りはありますか?
これまでで一番面白かったのが、トンカビーンズという精油です。
トンカビーンズを嗅いだときに、夜の歌舞伎町のイメージが浮かんだんですよ。黒い背景や夜のイメージで、そこにビビットなピンクやネオンの感じ、お化粧のパウダリーな感じとか、ザワザワした感じとか。そういうイメージがパッと出てきたのが面白くて。
そのようなイメージを組み合わせて世界観を表現しているのですが、トンカビーンズはすごく夜のイメージだけど、そこに明るい昼間のイメージのグレープフルーツを入れることで、その夜のイメージをだんだん明るくさせていったり。そういうのがブレンドの面白いところでもあります。
暮らしの中でのブレンドの楽しみ方
――精油のブレンドは難しいと感じている方もいらっしゃると思うんです。そんな方のために、精油の選び方のコツを教えていただきたいです。
普段の暮らしの中で香りのブレンドを楽しむのであれば、そのときの気持ちで香りを選んでいくのがいいと思います。
例えば、リラックスしたい気分なら、リラックスしたいという感情をもったまま、ヒットする香りをまず選んでみる。「これとこれを入れたら変な香りになったらどうしよう」とか、失敗してしまうかもという気持ちは置いておいて。
頭よりもまず自分の気持ちに従って、ピンとくる香りを素直に選ぶのが一番ですね。
――ちなみに、明菜さんがブレンドに使いやすいと思う精油はありますか?
どの精油とも相性がいいと思うのは、フランキンセンスですね。香りのトーンがフラットなので、落ち着いた香りや華やかな香りなど、いろいろなトーンのブレンドに合わせやすいです。柑橘系のグレープフルーツも使いやすいですね。
逆に、難しいのが木の精油です。ジュニパーやサイプレスとか。ブレンド直後はバランスがとれていたのに、あとあと出てきたりするんですよね。
明菜さんが選ぶ!ブレンドに使いやすい精油BEST5
・フランキンセンス
・グレープフルーツ
・ローズマリーシネオール
・ユーカリ・ラディアタ
・シダーウッド
アロマは自分の気持ちやイメージを表現してくれるもの
――明菜さんにとって、アロマはどういう存在ですか?
自己表現のツールみたいな感じですね。私においてもそうだし、サロンのお客様においてもそうなんですけど。そのときの気持ちや感情を言葉の代わりに表現するものというか。
お客様でも「今日はすごくフレッシュな感じで」っておっしゃっていたのに、アロマを選んでみたらリラックス系の香りばかりだったりして。「頭ではリフレッシュしたいと思っていたけど、本当はリラックスしたいと思っていたのかも…」と、自分の中身と向き合うきっかけになるんですよね。
ポトレイアロマを作るときには、アロマの1つ1つが絵の具みたいで。自分の持っているイメージを形にしてくれる道具のような存在としても捉えています。
――最後に、明菜さんのこれからの活動や、今後の目標、夢などについて教えてください。
ありがたいことに、企業様からお仕事の依頼をいただくことが増えてきました。直近の目標としては、ポトレイアロマをはじめ、プライベートな香りづくりにも一層力を入れていきたいです。
そして、夢は、作家さんとコラボすること。というのも、以前ある作家さんの絵を見たときに匂いがしたんです。ブワッと香りがして。もちろん、その絵に匂いがついているわけではないんですけど。自分の中で視覚と香りの回路ができていたというか…。その体験がすごく面白かったんですよね。
なので、作家さんの作品のイメージに合う香りを作ったり、逆に私が作った香りのブレンドに合わせて絵を描いてもらったり。そういうコラボレーションをきっかけに、これまでアロマに興味がなかった人にも興味を持ってもらえたらうれしいなぁと思い描いています。近い将来に必ず実現させたいです。
――藤田明菜さん、ありがとうございました!
ACUPASS refle
http://refle.tokyo.jp/index.html
Portray Aromas
http://refle.tokyo.jp/portray_aromas.html
interview by 小田ゆき