「アロマを身近に感じてもらう」をテーマに、アロマに関わる人々にスポットをあてお話を聞くインタビューシリーズ『AROMA PEOPLE(アロマピープル)』。3回目となる今回は、和精油の生産者・松田さんご夫婦です。
瀬戸内海に浮かぶ柑橘の島・大三島で、精油を果実から手作りしている「島香房(しまこうぼう)」。すべて手作業で生産される精油は、柑橘品種ごとの多彩なラインナップが魅力です。
松田康宏/Yasuhiro Matsuda
千葉県出身。「シトラス&アロマ 島香房」代表。地域おこし協力隊として2012年に大三島へ移住、柑橘農家に。無農薬・有機栽培の島柑橘を栽培から蒸留、パッケージングまで行い、農産物として柑橘精油を発信している。アロマアイテムのほか、柑橘果実やジュースも販売。
松田英理子/Eriko Matsuda
神奈川県出身。AEAJ認定・アロマテラピーアドバイザー/アロマハンドセラピスト。大学の理学部生物科を卒業後、製薬会社で薬剤の研究に従事。結婚後、大三島へ移住、子育てをしながら柑橘やハーブなど島の素材を使ったアロマアイテムを企画・製作している。
みかん畑の花の香りが「島香房」の原点
−−まずはアロマに興味をもったきっかけを教えてください。
松田康宏(以下、康宏):田舎暮らしと農業がしたくて、2012年に地域おこし協力隊として大三島に移住しました。柑橘の島で地域の魅力を発信できたらおもしろいだろうなぁと思っていたときに、ちょうど柑橘の花が咲きだしてその花の香りに衝撃を受けました。これを商品化できたら、すごくいいだろうなって。
松田英理子(以下、英理子):5月にみかん畑に行くと花の香りがして。リフレッシュする、リラックスする、「これはなんなのだろう?」って。そのとき気づいたんですね、植物のもつ力があるなっていう。これを、ジャムやジュースなどの食べ物以外にも取り入れる方法があるんじゃないかと考えて、思い至ったのがアロマテラピー。なので、大三島に来てからはじめてアロマのことを勉強したんですね。以前製薬会社で実験器具を扱っていたので、そういうのは慣れていたので抵抗なく。むしろ得意だからやりたい、みたいな(笑)。
−−お二人とも、柑橘の花の香りがアロマと出会うきっかけだったんですね。
英理子:そうですね。あまりよく知らなかったです、アロマがどういうものなのか。資格があるのも、協会があるのも、そういうセラピストさんがいらっしゃることも最初は知らなかったです。
−−アロマに対する先入観のないところから「島香房」はスタートしたんですね。
康宏:まずは蒸留器を買って、試しに蒸留して。島のハーブ農家さんのところでローズマリーをすすめてもらって蒸留してみたら精油が少し採れたんですよ。
英理子:当時は個人向けの蒸留器はあまり売ってなくて、インターネットで見つけたのが小型のアランビック蒸留器。「これなんだろう?」って思いながら購入して蒸留していましたね。
−−そこから精油を生産する仕事につながっていったんですね。
英理子:最初はフローラルウォーターを作って販売していました。精油は、ローズマリーとレモンの2種類から。
康宏:イベントに出してみたら反応がすごくよかったんです。それで本格的に、大型の蒸留器も取り入れて実際にやろうって決めて、今に至っているところです。最初の頃、イベントで広島のアロマセラピストさんが興味をもってくれて、アロマ仲間を連れて視察に来てくれて。そのときはまだまだ和精油の走りだったんですけど、すごく「和精油が使いたい」って言われて。しまなみ産、瀬戸内産のレモン精油ということで。
−−「島香房」の柑橘精油のなかで人気の香りは?
英理子:一番人気は島レモンですね、あとグリーンレモンも。辛みというか、スッキリ系でシャープな香りなので男性にも好まれます。女性に人気なのはちょっと甘い香り、リラックス系のネーブル、伊予柑、みかんですね。
−−ネーブルオレンジの精油って珍しいですよね。
英理子:ネーブルはすごく香りがいいので、精油を作っています。大三島原産の「大三島ネーブル」を使って。これからも新しい品種の柑橘精油が作りたくて、楽しみです。
栽培から蒸留、加工まで一貫して手作り
−−「島香房」が大切にしていることを教えてください。
康宏:原材料を栽培するところからスタートしているので、農業ありきということです。自分たちの手で無農薬、無化学肥料で栽培して、それを収穫して蒸留するっていう。なので、柑橘は少量多品目栽培。いろんな種類を育てるけど、収穫はそれぞれが少量です。その方が畑にも無理がなく、加工品のバリエーションも増やせるので、ひとつの畑からいろんなものが作れます。ベースはすべて、畑ですね。うちらにとってはそれが当たり前なんですけど「原材料から作って蒸留して加工までやってるのってすごいことだよね」って、結果的にまわりから評価をもらうようになりました。
−−有機・無農薬栽培を選択した理由を教えてください。
康宏:精油は、柑橘の皮や葉っぱを蒸留して芳香成分を凝縮するので、農薬が含まれてしまう可能性を考えて無農薬という選択をしました。農業自体も、有機・無農薬栽培もはじめてでしたが、移住者の先輩に教えてもらえる環境だったので。
−−フロクマリンを含まない柑橘精油ということで、「光毒性」を気にせず肌に塗布できます。トリートメントに愛用されるセラピストさんも多いですか?
康宏:多いですね。基本的に水蒸気蒸留法で抽出する柑橘精油にフロクマリンが含まれないというのはわかっていたんですけど、使ってもらうからにはお客様に何かもしものことがあったらいけないので、成分分析に出しています。分析表は精油に添付、開示しています。
−−普段はアロマをどんな風に使っていますか?
英理子:手作りコスメの香りづけを自分たちで作った精油でできるのが、すごくうれしいですね。思い入れもあって。個人的に好きな香りは、そのときの体調とか、気分にもよりますけど、柑橘系は全部好きですね。島レモンは一番好きです、やっぱり。
心身を癒やし、記憶を呼び起こす柑橘の香り
−−これでまでに印象に残っているエピソードはありますか?
康宏:病院の緩和ケアで「香りで癒やされたい」というニーズがあって、臨床で「島香房」の精油を使っていただいています。いろんな精油があるなかで、うちの島レモンとネーブルが一番人気だったそうです。
−−アロマの仕事をはじめて変わったことや驚いたことはありますか?
英理子:思ったよりもすごく、喜んでくださる方がたくさんいらっしゃって、それが励みになっています。率直なお声を知ることができたのが、大きな変化ですね。生産者として、直接お客様とやりとりさせていただくなかで、いろいろ気づかされるというか。喜んでもらえたときはうれしいですね。
康宏:香りって記憶とすごく密接につながっているんです。島を出て暮らしている人がうちの柑橘精油の香りをかいで、子どもの頃に大三島で育ったことを思い出したと言ってもらえたことも。この島での香りの原風景を持っている人が、精油を通して大三島を思い出してくれるのが、おもしろいなぁと思いましたね。
島の香りでオリジナルコスメを開発中
−−新しい工房も完成し、今後の展開も楽しみですね。これからの活動について聞かせてください。
康宏:香りって、精油だけじゃなくて、浸出油だったり、化粧水だったり、いろんな楽しみ方があります。今後は、さらに島のものを取り入れて、オリジナルコスメを開発したいですね。今注目しているのはミツロウ。島のミツロウを絡めてスキンケアアイテムを作ろうと企画中です。
英理子:大三島はみかん花のハチミツが採れるので養蜂も盛んです。ミツロウをブロックごと島の養蜂家さんから直接仕入れて、自分たちで精製しています。試しに友人からのリクエストに応えて、オーガニックホホバオイルとミツロウでペットの犬用肉球ケアクリームを作ってみました。もちろん、猫にも使えます。遊びゴコロで作ったので数量限定、知る人ぞ知るアイテムですが(笑)。
ここは柑橘の島でいろんな品種があるんですよね。それが大きな魅力だし、いろんな柑橘の種類があることを香りで知ってもらえたらすてきだなぁって。香りで島のことを表現じゃないですけど、PRしていけたらと思っています。
−−松田康宏さん、英理子さん、ありがとうございました!
シトラス&アロマ 島香房
http://www.shimakobo-omishima.com
interview by 山本佐智世