こんにちは!アロマライフデザイナーの小田ゆき(@aroma_lifestyle)です。
10月にソニーから新しくアロマディフューザーが発売されました。
『AROMASTIC』という持ち運びができるスティック型のパーソナルアロマディフューザーで、香りは、英国の老舗オーガニックコスメブランドであるニールズヤード レメディーズのアロマセラピスト(英国IFAやAEAJ認定資格者)監修による、天然植物由来のエッセンシャルオイルを使用した本格的な製品です。
使えば使うほど、細部に至るまでよく考えて作られた製品だなぁとその使いやすさに感動してしまったのですが、
でも、そもそもなぜ電機メーカーの大手企業でもあるソニーがアロマディフューザーを?
いったいどんな人が開発したんだろう?
と、いろんなことが気になってしまったので、このたびソニー本社にお伺いし、AROMASTICの開発者である藤田さんに直接お話を聞いてきました!
社内からビジネスアイデアを募るソニーの新規事業創出プログラムから生まれた製品。
2015年11月~2016年1月に、ソニーの運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」にてクラウドファンディングを実施。製品開発は支援者の意見を取り入れながら進め、2016年10月に正式販売がスタートしました。
※クラウドファンディングとは、製品開発に必要なをインターネットを通じて多数の支援者から集め、一定額が集まった時点で製品化に向け、プロジェクトを進めていくこと。
AROMASTIC開発者 藤田さんにインタビュー
新しい香りの楽しみ方ができると注目されている『AROMASTIC』。
今回は、そんなAROMASTICが誕生したきっかけや、製品化までのストーリー、AROMASTICでしか体験できない魅力など、開発者の方からしか聞くことができない貴重な誕生秘話をご紹介したいと思います。
AROMASTIC誕生のきっかけは意外なところに…
小田:
AROMASTICはただ単に香りを楽しむためでなく、“香りで気持ちを切り替える”ことを第一に考えられた新しいタイプのディフューザーだと思いますが、そもそもなぜAROMASTICを開発しようと思ったのでしょうか?
藤田:
もともとのきっかけはアロマというよりもエンターテイメントの一要素として、視覚、聴覚以外の“嗅覚”を使ったものがおもしろいんじゃないか、というところがありました。
ここに至る経緯としては、数年前にソニーの研究所に在籍していた頃、私の個人的興味から、業務外の活動として、香りのバーチャルリアリティのようなことに取り組もうとしていた時期があって。
でも、まず映像や音楽のコンテンツありきという、ハードルもあり、加えて、社内留学制度でアメリカの大学に行くことになり、その取り組み自体が一旦、フェードアウトしてしまったんです。
ところが、その後1年半くらいして僕が日本に戻ってきたときに、新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(”SAP”)」という、社内での新規ビジネスアイデアを育成する制度が始まっており、チャンスだと思いました。
アロマというものをシンプルに日々楽しんでいる人がいて、それで幸せを享受している人がいる。そこには世界観も広がっていて…。
いろいろ考えた結果、香りというその単体がコンテンツとして十分だということに気づいたんです。
自分の中では、いろんなところをぐるっと一周回ってようやく気づいた感じです。
研究所に在籍されていた頃は、ヘッドマウントディスプレイ(頭に装着する映像ディスプレイ装置)をつけて、例えば京都のお寺のシーンを見せながら、お線香をシャカシャカ振ってお寺のような香りを漂わせてみたり、ホラー映画を見せて、土のような香りを出すために、ホームセンターで買ってきた腐葉土にエタノールをかけてふわ〜と漂わせたりして「おぉ〜リアルだ」と臨場感を楽しんでいたとお話される藤田さん。そういった経験から、香りの可能性に気づかれたのかもしれませんね。
香りを手軽に楽しめるものを作りたいと思った
藤田:
でも、香りって楽しもうとしてすぐ手軽に楽しめるかというと、そうではなくて…。
このアイデアの原型を考えていたときは図書館にこもって考え事をしていたんです。でも図書館で香りをすぐに楽しめるかというと、そうではない。
もし仮にその場にアロマディフューザーがあったとしても、スイッチはいれられないだろうなと。
だからこそ、いつでもどこでも手軽に香りを楽しめるものがあれば、もっとアロマの楽しみ方を広げられるのではないかと思ったんです。
さっそくアイデアを練り上げて、隣で一緒に仕事をしていた同僚女性に見せてみたら思いのほか好評で。いつもバサッと切る人だったので…。
それで、その女性と、以前バーチャルリアリティを一緒にやっていた人、3人でプロジェクトを始めました。みんな研究所出身のメンバーで、同期なんです。
ささっと使えて、使い終わった後にポーンと放り投げておけるものを
藤田:
自分はアロマに詳しいわけではないので、実際にアロマを簡単に手軽に楽しめるものがないかとデパートやバラエティショップを見て回ったり、いろいろ調査を行いながら開発を進めていきました。
アンケートをとって興味深かったのが、アロマディフューザーを持っているけど今は使っていないという人の7割がそれを使っていない理由として「めんどくさい」と答えたんですよね。
具体的には、手が汚れちゃうとか。悲惨だったのが、アロマオイルを持ち運んだらアロマオイルが漏れていてかばんがダメになってしまったとか。
あとは、やり始めるときに後片付けが頭の中をよぎっちゃうとか。
小田:
これから楽しもう!とするときに、使った後のことを考えてしまうんですね(笑)
なんかいろいろやんなきゃいけないとか…。
藤田:
そうそう、やんなきゃいけないとか。
AROMASTICをニールズヤードさんの店頭でテストマーケティングし始めたときのことだったんですが、寝つきが悪い方に「ラベンダーの香りがおすすめですよ」というようなお話をしたときに、「そうなのよ。でもそうやってラベンダーが(安眠に)いいから…みたいな感じでスイッチ入れてあれこれ行動しているうちに目が覚めちゃうんだよね」という方も結構いて、そりゃそうかと。
そういった意見を聞いて初めてそういう悩みもあるんだなということを知ったんです。
あ、そっか、AROMASTICはそういうところでも結構いいかもみたいな。
なので、単純に手軽なものっていうイメージで、ある程度シンプルなものをというテーマに行き着いたところもある一方で、プロトタイプ(原型)を作っている時点でそのような意見を聞いたので、やっぱりささっと使えて、使い終わった後ポーンと放り投げておけるみたいなものがいいんだろうなと。
小田:
実は、私は先日AROMASTICを購入して一通りじっくり使ってみたんですけど、まず感じたのが、アロマのめんどくさいというお悩みをいろいろ解決しているんじゃないかと思ったんです。
アロマディフューザーを買ってみたけど、やっぱりいろいろめんどうで使わなくなってしまったという方は多いというか…。
藤田:
確かに、アロマディフューザーを買うときはみんなアロマのある豊かな時間、生活を想像をし、お店でふわ〜。いいなあ、と思い買うんだけれども、だんだんと使うのが億劫になっちゃうみたいなところがわかるんですよね。すごく。
ぼくも初めランプのお皿のやつを買ったんですが、気になって最後お皿を拭くじゃないですか。でも意外とオイルが取れない。だんだん固まってしまって、お湯につけて洗ってみたり…。
そうやっていると、頭の中に後片付けがよぎるって言われたのがすごく納得できたんです。あ〜これきちんと拭かないと明日になるとオイルが固まっちゃうんだろうなって。
あとは、水をはるやつはもっとめんどくさいという声も聞いて。
でも、中にはそこも含めて、ひとつのお作法ではないですが、その所作も含めてリフレッシュだと考えているという方もいらっしゃいます。それはそれですごくありだし、でも、そういう方にとっても、出先など含めて“ささっ”と香りを嗅ぐいう瞬間があってもいいなって思ったんです。
手が汚れないのも手軽さのポイント
藤田:
たまたま同じ部署の女性から、出張に持っていく小さなアロマディフューザーがすぐ壊れて使い物にならない。汚れも気になる。という困りごとも聞いて、やっぱり汚れちゃうとかめんどくさそうだな。壊れないものを作りたい。そういったところも突き詰めていきました。
カートリッジ式にしたのも、自分でやってベタベタしちゃうからアロマオイルを持ち運ばなくてもいいように…みたいな手軽さがカートリッジ式なら実現できるかなと思ったところはありますね。
地道な企画開発段階。街頭ゲリラインタビューも敢行!
藤田:
AROMASTICの開発にあたっては、ヒアリングや街頭インタビューもたくさんやりました。
忌憚ない意見をもらうためにも、あえてソニーということを隠してスタートアップ風に装ってやったり。
当時アロマテラピー検定の受講者の方などアロマに興味のある方に片っぱしから、アンケートでヒアリングを重ねました。製品のことを考えすぎて、自分が検定を受けることは頭にありませんでした。その後、1級を取得しましたが。
意見を聞くためなら、どんなところでも飛んでいきました。結構、泥臭いことをいっぱいやりました。
アロマテラピー検定を受験し、合格した直後、日本アロマ環境協会のパンフレットに藤田さんが登場されています。たまたま協会の方が何かで聞きつけられたそうで。こんなこともあるんですね。
WEBにも掲載されています。
仕事にアロマを|アロマの現場(日本アロマ環境協会)
小田:
AROMASTICがそれなりにアロマに対する関心が高い人じゃないと気づかないような細かいニーズに答えられているのも、そういった背景があったからだったんですね。
あとはクラウドファンディングで支援者の方のたくさんの意見を吸い上げられたというのもあったんでしょうか。
藤田:
クラウドファンディングの支援者もそうですし、クラウドファンディング期間中、ニールズヤードやヒカリエ、伊勢丹、蔦屋家電で実施させていただいた店頭デモで、老若男女いろいろな人の声を聞くことができました。
クラウドファンディングでは苦労の連続。でも一度試してもらうと…
藤田:
実は、クラウドファンディングでは本当に苦労しました。
本来クラウドファンディングというものはインターネット上で完結するものなんですが、AROMASTICの場合はインターネットだけでは製品の特長が全く伝わらないので、クラウドファンディング期間中の後半は、日々、先述のご協力いただいた店舗に立ってデモをしました。
でも、やればやるほどお客様には響いて。
AROMASTICのいいところは、みんなに何かしら興味を持ってもらえるところなんです。
多分みなさんが潜在的にあってもいいかも、と思う部分に触れているのかもしれないですけど。
僕が今でもうれしいなと思うのが、たまたまふと通りがかったお客様に説明して、クラウドファンディングはよくわからないという方でも、その場で支援(予約購入)くださる方がいらっしゃって。
クラウドファンディングって障壁があるじゃないですか。お届けするのに時間がかかるなど。
それでもそこで買ってくれる。結構衝撃でした。
これまで研究職で、人に物を売った経験もなかったですし。本当に買ってくれるんだと感動して。
だから香りというのはすごいと思うんです。
説明を聞いてもよくわからない人でも、とりあえず試すと「わ〜」となって。