現役教師が教えるやさしい精油の化学/2時間目:香り成分はどのようなしくみでできているの?

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こんにちは!高校で化学を教えている、アロマセラピストの森永香織です。

前回の記事(身の回りの物質は何からできているの?)では、身のまわりのすべての物質は、「原子」といわれる小さい粒でできていることをご紹介しました。

私たちの身体も、毎日食べているものも、身に付けているものも、すべて「原子」からできているのです。

2時間目は、「原子」どうしがどのようにつながって、物質ができているのかを学びます。そして、いろいろな香り成分のしくみを解明していきましょう。

目次

それぞれの原子は、つなぐことのできる「手」の数が決まっている!

下に示したものは、ビールやワイン・焼酎など、お酒の主成分である“エタノール”という物質について、原子どうしのつながりを表した構造式です。

エタノールは、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の3種類の原子からできていますが、それぞれの原子について、よく見てみてください。他の原子とつながっている数が違うのです。

エタノール 構造式

炭素(C)は4つの原子水素(H)は1つの原子酸素(O)は2つの原子とつながっています。

これをそれぞれ4つ、1つ、2つの「手」を持っているということにします。

なぜこのように原子ごとにつなぐことのできる「手」の数が違うのでしょうか?

「手」の数を決めるのは・・・

原子は、陽子・中性子・電子の3種類の粒からできていましたね。

原子の種類を決めるのは陽子の数でしたが、原子どうしのつながりに大きく関わるのは「電子」なのです。

電子の特徴とは

  • 原子番号と同じ数だけ存在する。
  • 原子核の周りを止まることなく動いている。
  • 動ける場所(電子殻)はいくつかあり、内側から順にK殻、L殻、M殻という名前がついている。また、入ることのできる電子の最大数がそれぞれ決まっている。

電子殻

それでは、香り成分をつくる主な原子である、炭素原子、水素原子、酸素原子の中の電子の様子は、それぞれどのようになっているのでしょうか?

まずは炭素原子から見てみましょう。

炭素原子

炭素

炭素のL殻には4個の電子が入っていますが、L殻の定員は8個なので、あと4個の電子が入ることができます。ここに他の原子が近づき、L殻に電子が入ることによって、原子どうしがつながります。

水素原子

水素のK殻には1個の電子が入っていますが、K殻の定員は2個なので、あと1個の電子が入ることができます。

酸素原子

酸素原子

酸素のL殻には6個の電子が入っていますが、L殻の定員は8個なので、あと2個の電子が入ることができます。

つまり、それぞれの原子が結合できる「手」の数は、まだ電子が入ることのできる数のこと (図中のピンクの矢印 の数)なのです。

原子 炭素(C) 水素(H) 酸素(O)
原子番号 6 1 8
電子の数 6個 1個 8個
K殻の電子 2個 1個
*1個空き
2個
L殻の電子 4個
*4個空き
なし 6個
*2個空き

下に示した図は、エタノールの化学結合の様子を表したものです。

エタノールの化学結合

原子どうしが近づき、電子を一緒に持つことによって、K殻には2個、L殻には8個の電子が入ることになります。

原子の世界では、電子殻の定員まで電子が入ることは、とても安定な構造になるということなのです。

このように、原子どうしがお互いの電子を共有する化学結合のことを、特に「共有結合」といいます。

実は、香り成分は、原子どうしが「共有結合」でつながってできたものなのです。

目に見えない小さな小さな電子が、原子どうしのつながりに大きな役割を果たしているのは、とても不思議なことですよね。

香り成分の基本構造

この世の中にあるあらゆる物質は、「有機化合物」と「無機化合物」に分類されます。

※化合物とは2種類以上の元素からできている物質のことをいいます。

有機化合物とは、炭素(C)を主体に、水素(H)や酸素(O)などの元素を含んでいる化合物のことをいいます。

構成する元素の種類はごく限られていますが、身の回りにある多くのものは有機化合物でできていています。

私たち人間の体もそのひとつ。そして、植物が作り出すさまざまな香り成分も有機化合物でできているのです。

有機化合物の特徴

・構成する元素
炭素(C)を必ず含む
他に水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)など少数

・特徴
燃えやすい
ほとんど水に溶けにくい
化合物の種類がきわめて多い

・例
炭水化物(デンプン、砂糖…)、タンパク質、アミノ酸、脂質、香り成分など

無機化合物の特徴

・構成する元素
ほとんどすべての元素

・特徴
燃えにくい
水に溶けやすいものもある

・例
食塩、岩石、セメント、ガラスなど

数多くある有機化合物を、さらに分類するには、

  1. 炭素原子のつながり方による分類
  2. 官能基(特徴的な原子の集まり)による分類

の2つの方法があります。

今回は(1)の「炭素原子のつながり方による分類」についてお話しします。

炭素原子のつながり方による分類

炭素原子は4つの「手」を持っており、他の原子に比べてさまざまなつながり方ができます。

そのため、炭素同士のつながり方も、次のように3種類の結合があります。

1本の手でつながれた「単結合」

単結合

2本の手でつながれた「二重結合」

二重結合

3本の手でつながれた「三重結合」

三重結合

ちなみに、三重結合は精油を構成する香り成分にはほとんど含まれません。

これらの結合によりできた化合物は、結合の仕方によって「テルペン化合物(テルペノイド)」「芳香族化合物」「脂肪族化合物」の3つに大きく分けられます。

テルペン化合物(テルペノイド)

イソプレンがいくつか集まった構造の化合物
イソプレン骨格

補足:文献によっては以下の構造式で表されることもあります。(単結合が回転できるため)
イソプレン骨格

芳香族化合物

ベンゼン環をもつ化合物
ベンゼン環

脂肪族化合物

炭素が鎖状につながっている化合物
脂肪族化合物 オクタナール

おわりに

2時間目、いかがでしたか?

次回はテルペン化合物について、さらに詳しくご説明します。

また、もうひとつの有機化合物の分類法(官能基による分類)についてもご紹介し、香り成分の名前から化学的な特徴が少しでもわかるようになれば、と思っています。

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この記事を書いた人

AEAJ認定アロマセラピスト/AEAJ認定アロマテラピーインストラクター/環境カオリスタ/@aromaアロマ空間コーディネーター/JAMHA認定ハーバルセラピスト お線香の香りが漂う家で育ち、香りのある植物が大好き。現在、高校で化学を教えている理科教師です。

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