現役教師が教えるやさしい精油の化学/3時間目:香り成分の構造と分類

こんにちは!高校で化学を教えている、アロマセラピストの森永香織です。

前回の記事(香り成分はどのようなしくみでできているの?)では、原子がどのようにつながって、物質をつくっているのか、そのしくみについて学びました。

3時間目は、いよいよ実際の香り成分の構造と分類についてお話します。

精油の成分を学ぶときにたくさん出てくる物質を整理しておきましょう!

分子の大きさが香りに影響する!?

香り成分が気体となって鼻に入ってくる、それが電気信号になって脳に伝わり、私たちはにおいを感じています。

植物の中の香り成分のように、液体や固体として存在していたとしても、においを感じるためには、香り成分が気体に変化しなくてはいけません

実は、その香り成分が気体になりやすいものか、なりにくいものかによって、においの感じやすさも違ってくるのです。

すべての物質は、原子とよばれる小さな粒からできています。原子が共有結合により集まったものが分子です。香り成分の正体は、この分子なのです

分子と分子の間には自然と引き合う力(分子間力)があり、その力により分子が集まった状態のものが液体や固体です。

一般に、分子間力は分子が大きくなるほど強くはたらくことがわかっています。

つまり、小さい分子ほど分子間力が弱くて気体になりやすく、大きい分子ほど分子間力が強くて気体になりにくいのです。

小さい子どもどうしが手をつないでもすぐに切れてしまいますが、大人どうしががっちり手をつなぐとなかなか切れない、というのが分子間力のイメージです。

香り成分の基本構造…テルペン類

植物が作り出す多くの香り成分は、イソプレン(分子式:C5H8)が複数個集まってできたテルペン化合物(テルペノイド)です。

テルペン類とも呼ばれ、精油の化学において基本構造となるものです。

イソプレン骨格

テルペン類は、結合しているイソプレンの数によって、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペンなどに分類されます。いずれも、名前の語尾が「~エン」で終わることが特徴です。

モノテルペン類

イソプレンが2個結合したもので、分子式はC10H16。小さい分子であるため揮発性が高く、香料ではトップノートとして扱われます。

○特徴
・香りが弱い
・酸化しやすい
・抗ウイルス、抗菌、うっ滞除去作用
*皮膚や粘膜を刺激

○主な香り成分
α-ピネン(ローズマリー、ジュニパーベリー、ユーカリ・グロブルス)
リモネン(柑橘系の精油、ブラックペッパー)

セスキテルペン類

イソプレンが3個結合したもので、分子式はC15H24。分子の大きさがモノテルペン類より大きく、粘性があることから、揮発性はそれほど高くありません。香料ではミドルノートからベースノートの役割をします。

○特徴
・香りが強い
・粘り気がある
・リラックス、抗炎症作用
*皮膚や粘膜をやや刺激

○主な香り成分
カマズレン(カモミール・ジャーマン)
パチュレン(パチュリ)
ネロリドール(ネロリ)

ジテルペン類

イソプレンが3個結合したもので、分子式はC20H32。分子の大きさがセスキテルペン類よりもさらに大きく、揮発性が低いことから、水蒸気蒸留ではほとんど蒸留されません。

○特徴
・香りはほとんどないか弱い
・香りを長持ちさせる保留剤の役割をする
・アブソリュートに多く含まれる

○主な香り成分
スクラレオール(クラリセージ)
イソフィトール(ジャスミン)

モノテルペン類 セスキテルペン類 ジテルペン類
イソプレン(C5H8)の数 2個 3個 4個
分子式 C10H16 C15H24 C20H32
分子の大きさ
揮発性(気体のなりやすさ)
香りの持続時間

香りの質や強さを特徴づけるもの …官能基

有機化合物の基本構造は、テルペン化合物やベンゼン環など、炭素原子(C)と水素原子(H)を主体としたものです。

ベンゼン環

有機化合物はとても種類が豊富ですが、その分子構造の中に「個性的な特徴をもつかたまり」がいくつか存在します。そのかたまりのことを「官能基(かんのうき)」といいます。

精油の化学を学ぶ上で知っておきたい官能基は、下の5つです。

  1. ヒドロキシ基(-OH)
  2. アルデヒド基(-CHO)
  3. カルボニル基(-CO-)
  4. エステル結合(-COO-)
  5. エーテル結合(-O-)

いずれも酸素原子(O)を含んでいることから、すべての香り成分は、炭素原子(C)、水素原子(H)、酸素原子(O)で構成されていることがわかります。

同じ原子からできているのに、香りの質や強さが違うのはとても不思議なことですよね。

同じ官能基を持つ化合物は同じような性質を示すことから、ひとつのグループとして分類することができます。

官能基による分類

それでは、香り成分がどのように分類されるのか、見ていきましょう。

1. ヒドロキシ基(-OH)

ヒドロキシ基(水酸基)をもつ化合物には、テルペン類にOH基が結合した「アルコール類」と、ベンゼン環に直接結合した「フェノール類」の2つのグループがあります。どちらも名前の語尾が「~オール」となります。

◎アルコール類

炭化水素にヒドロキシ基(-OH)が結合したもの。

○特徴
・やわらかく香る
・酸化されやすい
・気分を高揚させる作用
・抗菌作用
・毒性はなく、皮膚にも穏やか

○主な香り成分(精油)
<モノテルペンアルコール>
ゲラニオール(ゼラニウム、ローズ)
リナロール(ラベンダー)
メントール(ペパーミント)
テルピネン‐4‐オール(ティートリー)

<セスキテルペンアルコール>
ネロリドール(ネロリ)
パチュロール・パチュリアルコール(パチュリ)
ベチベロール(ベチバー)
サンタロール(サンダルウッド)

<ジテルペンアルコール>
スクラレオール(クラリセージ)

<芳香族アルコール>
フェニルエチルアルコール(ローズ)

◎フェノール類

ベンゼン環にヒドロキシ基(-OH)が結合したもの。

○特徴
・揮発性が低い
・強力な抗菌作用
*皮膚や粘膜への刺激が強い
*長期間使用しない
*高濃度で使用しない

○主な香り成分(精油)
オイゲノール(ミルラ)

2. アルデヒド基(-CHO)

◎アルデヒド類

アルデヒド基を含む化合物を、アルデヒド類といいます。名前の語尾は「~アール」です。

○特徴
・酸化されやすい
・虫除け作用
*高濃度では皮膚や粘膜を刺激

○主な香り成分(精油)
シトラール(レモン、レモングラス、メリッサ)
シトロネラール(シトロネラ)
ネラール(メリッサ、レモングラス)

3. カルボニル基(-CO-)

◎ケトン類

カルボニル基(ケトン基)を含む化合物を、ケトン類といいます。名前の語尾が「~オン」となるものが多いです。ケトン類は神経系への刺激があるため、乳幼児や妊婦、疾病をもつ方への使用には注意が必要です。

○特徴
・少量では鎮静作用
*刺激の強い成分や毒性の指摘されている成分がある
*乳幼児、妊婦、授乳中、てんかんを持つ方への使用は注意する

○主な香り成分(精油)
カンファー(ローズマリー)
ヌートカトン(グレープフルーツ)
メントン(ペパーミント)

4. エステル結合(-COO-)

エステル結合を含む化合物には「エステル類」と「ラクトン・クマリン類」があります。

◎エステル類

酸とアルコール類が反応して生成される化合物です。名前は「~酸~イル」となります。
ラベンダー精油に含まれる酢酸リナリルは、酢酸とリナロールという2つの物質が結合してできたものです。

○特徴
・甘くてフルーティな香りが強い
・深い鎮静作用
・刺激は少ない(例外:サリチル酸メチル)

○主な香り成分(精油)
酢酸リナリル(クラリセージ、ラベンダー、ベルガモット、ネロリ)
酢酸ベンジル(イランイラン、ジャスミン)
安息香酸メチル(イランイラン)

◎ラクトン・クマリン類

環状構造の中にエステル結合を含む化合物をラクトン・クマリン類といいます。

○特徴
・揮発性は低い
・水蒸気蒸留法で得られた精油には含まれていない
*光毒性の原因物質であり、皮膚に塗布してから紫外線に注意

○主な香り成分(精油)
ベルガプテン(ベルガモット)

5. エーテル結合(-O-)

◎オキサイド類

環状構造の中にエーテル結合を含む化合物を「オキサイド類」といいます。

○特徴
・揮発性が高く、強い爽快感のある香り
・強力な去痰作用
・抗感染作用
*多量使用すると皮膚を刺激

○主な香り成分(精油)
1,8‐シネオール(ユーカリ・グロブルス、ローズマリー、ティートリー、ペパーミント)

精油の化学を学ぶときのポイント

精油の中にはたくさんの香り成分が含まれていますが、その成分はまだ100%は解明されていません。

また、植物の生育環境や精油の抽出時期、抽出方法によっても、香り成分は変化するため、精油についてすべてを理解することはとても難しいことです。

しかし、多く含まれる成分や特徴的な成分はぜひおさえておきたいものです。

もっと詳しく知りたい方は、高校の化学の参考書コーナーで、「有機化学」を扱ったものを探してみるのもいいかもしれません。最近は、イラストや図を多く用いた参考書もたくさんあります。

また、ちょっと専門書レベルのものでは、
アロマテラピーを学ぶためのやさしい精油の化学』E・ジョイ・ボウルズ著(フレグランスジャーナル社)
香りがナビゲートする有機化学』長谷川登志夫著(コロナ社)
を参考にしてはいかがでしょうか。構造式だけでなく、香り成分のできるしくみなど詳しく書かれています。

精油の中の香り成分は、聞きなれない名前で難しく思われがちです。しかし、一気に覚えようとせずに、だんだん慣れていくつもりで大丈夫だと思いますよ。楽しみながら学んでいってくださいね。

◆これまでの記事はこちら
現役教師が教えるやさしい精油の化学
1時間目:身の回りの物質は何からできているの?
2時間目:香り成分はどのようなしくみでできているの?

RECOMMENDおすすめの記事

WRITERこの記事をかいた人

森永香織

AEAJ認定アロマセラピスト/AEAJ認定アロマテラピーインストラクター/環境カオリスタ/@aromaアロマ空間コーディネーター/JAMHA認定ハーバルセラピスト お線香の香りが漂う家で育ち、香りのある植物が大好き。現在、高校で化学を教えている理科教師です。