現役教師が教えるやさしい精油の化学/4時間目:アロマクラフト作りに役立つ化学の知識

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こんにちは!高校で化学を教えている、アロマセラピストの森永香織です。

アロマテラピーは、香水や香油、化粧水や入浴剤など、いろいろなアロマクラフト作りでその楽しみ方が大きく広がります。

精油は天然の香り成分が高濃度に濃縮されたものなので、必ず薄めて使用します。

そのとき、水で薄めるのではなく、植物油や無水エタノールなどで薄めて使用しなくてはいけませんよね。なぜ、精油は水で薄めることができないのでしょうか?

最終回である今回は、植物油や無水エタノールなどの基材の化学構造についてご紹介し、香り成分との関連性について学んでいきましょう。

目次

ドレッシングを化学の目で見てみると…

植物油を含むドレッシングを使うときには、直前によく振りますよね。水と油は混ざり合いにくい、というのはよく知られていることですが、それは化学の視点からどのように説明できるのでしょうか?

まずは、水の構造から見ていきましょう。

水分子は、2つの水素原子(H)と1つの酸素原子(O)からできていて、化学式ではH2Oと示します。

構造式では「H-O-H」とまっすぐに書くことが多いですが、実際の水分子は折れ曲がった構造をしていて、部分的に微量の電気を帯びています。これを、δ-(デルタマイナス)、δ+(デルタプラス)と表します。

水分子のように、分子の中に部分的にプラスとマイナスの電気が存在する分子のことを“極性分子”といいます。

それでは、植物油の構造はどのようになっているのでしょうか。

植物油の分子構造は、グリセリン1分子に脂肪酸3分子が結合した形をしています。水分子に比べてかなり複雑で、大きな分子であることがわかります。

緑色で囲んだ部分はエステル結合で、1分子中に3個あります。植物油は、グリセリン1分子と脂肪酸3分子が、エステル結合でできた構造なのです。

水分子と同じように、水素原子(H)と酸素原子(O)も含まれていますが、同じような結合部分は見つかりません。

物質どうしが混ざり合うかどうかは、「構造が似ているか、似ていないか」が大きく影響してきます。水分子と植物油の分子のように、構造が似ていない分子どうしは混ざりにくいのです。

植物油を含むドレッシングをよく振ると、そのときは水と油は混ざりあったように見えます。しかし、時間が経つとまた分離していくことから、水と植物油は完全には混ざり合ってはいないのです。

<参考>
赤色で囲んだ部分は炭素原子(C)と水素原子(H)が結合したかたまり(CH3-CH2-CH2-・・・)を略して示したもので、炭化水素基といいます。

炭素原子が単結合でつながると、図の一番上のようにまっすぐな炭化水素基になりますが、二重結合でつながった部分は、上から二番目、三番目のように曲がった炭化水素基になります。

この炭化水素基は、脂肪酸(オレイン酸・リノール酸・リノレン酸など)に由来する部分で、植物油によって炭化水素基の種類や数が異なっています。二重結合を多く含む植物油は、空気中の酸素と反応しやすく、酸化されやすいという特性があります。

「お酒の水割り」を化学で説明すると…

お酒にはアルコールが含まれる、ということをよく耳にすると思いますが、厳密にはアルコールとは物質のグループ名のことで、ヒドロキシ基(-OH)を含む化合物の総称です。

アルコールのうち、炭素原子(C)の数が2個のものを「エタノール」といいます。

アロマテラピーの基材として用いる「無水エタノール」とは、エタノールが高濃度(約99.5%以上)含まれるものです。また、同じエタノールを含むものとして「消毒用エタノール」があります。これはエタノール濃度が約80%で、消毒作用が高い濃度とされています。

それではエタノールの構造と、水の構造を比較してみましょう。

比較してみると、似たような構造があります!

エタノールに含まれる-O-Hのかたまりは、「ヒドロキシ基」という官能基ですが、水と混じりやすい性質をもつことから「親水基」といいます。
また、エタノールには植物油のように炭素原子と水素原子のかたまりも存在し、「親水基」に対して「疎水基」といいます。

水分子とエタノールの分子のように、構造が似ている分子どうしは混ざりやすいのです。ウイスキーや焼酎などで水割りやソーダ割りができるのも、分子構造が深く関係しているのです。

水に溶けるか、溶けないかの決め手は??

しかし、「親水基」をもつ物質がすべて水に溶けるわけではありません。「疎水基」と「親水基」の大きさなどにより、どちらの影響が強く出るかによって、決められるのです。

エタノールは親水基と疎水基をあわせ持つ分子ですが、ちょうどそのバランスから、水にも油にも溶ける物質なのです。このバランスの良さが、アロマテラピーで基材としてよく用いられる理由なのです。

香り成分を水で薄めるのは不可能??

精油に含まれる香り成分は、有機化合物に分類され、炭化水素基と官能基(化合物の特徴を表す原子のかたまり)の組み合わせでできていましたよね。

香り成分の基本構造である炭化水素基は、イソプレン(C5H8)が2個~4個がつながった「テルペン化合物」や、炭素6個が独特の環状につながったベンゼン環を含む「芳香族化合物」に由来する部分です。炭素原子や水素原子が多く含まれ、疎水基に分類されます。

官能基は、その種類によって親水基と疎水基に分類されます。
 
○親水性の官能基:グループ名
-OH(ヒドロキシ基):アルコール類、フェノール類
-CHO(アルデヒド基):アルデヒド類
-CO-(ケトン基):ケトン類

○疎水性の官能基:グループ名
-COO-(エステル結合):エステル類、ラクトン・クマリン類
-O-(エーテル結合):オキサイド類

香り成分には親水性の官能基を持つものも数多くありますが、疎水性の炭化水素基の影響の方が強いものが多いです。そのため、香り成分を多く含む精油は水に溶けにくく、スイートアーモンドオイルやマカダミアナッツオイルなどの植物油に溶けやすいのです。

ここで、エタノールの構造を思い出してください。エタノールは疎水基と親水基のバランスが良い分子でした。この特性より、疎水性である香り成分にも、水にも混ざり合うことができるのです。

香り成分は水に直接は溶かすことはできませんが、エタノールに溶かした後、水を加えることによって、間接的に水に溶かすことができるのです!

精油を用いたアロマスプレーやスキンローションを作るときには、くれぐれも混ぜる順番を間違えないようにしてくださいね。

香り成分や基材の化学、いかがでしたか?日頃、あまり目にすることのない化学用語もたくさんだったことと思います。

アロマテラピーは「香りを感じる」ことがとても大切なことと思いますが、時には香り成分や基材などの分子構造など「香りを考える」ことで、もっと楽しみを広げることができますよ。

◆連載一覧「現役教師が教えるやさしい精油の化学」
1時間目:身の回りの物質は何からできているの?
2時間目:香り成分はどのようなしくみでできているの?
3時間目:香り成分の構造と分類
4時間目:アロマクラフト作りに役立つ化学の知識(今回)

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この記事を書いた人

AEAJ認定アロマセラピスト/AEAJ認定アロマテラピーインストラクター/環境カオリスタ/@aromaアロマ空間コーディネーター/JAMHA認定ハーバルセラピスト お線香の香りが漂う家で育ち、香りのある植物が大好き。現在、高校で化学を教えている理科教師です。

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